2002年3月5日火曜日

18 記載岩石学:2002.03.05

学会の雑誌への書評
周藤賢治・小山内康人:岩石学概論・上 -岩石学のための情報収集マニュアル 共立出版, 2002年2月, 272ページ (CD-ROM付き), 3,700円。
岩石学の教科書と呼べるものはいくつかある。しかし、記載岩石学と呼ぶべきものは、そう多くはない。和書で、類書としてまっさきに思いつくのは、都城秋穂・久城育夫著「岩石学I、II、III」の全3巻および黒田吉益・諏訪兼位著「偏光顕微鏡と岩石鉱物」の2つである。どちらもいい書籍で、いまだに多くの学生および研究者も利用しているのではないだろうか。
本書は、タイトルどおり、岩石を記載するときに不可欠となる知識、かつ重要な事項が整理されている。そして、岩石学における最新情報ももちろん盛り込まれている。本書の構成は、岩石の分類、火成岩の組成・分類・組織、火成岩の微量元素組成と同位体組成、火成岩の記載的特徴、火成岩体、変成作用、変成岩の分類と命名、変成作用の限界と進行過程、変成相と変成相系列、変成岩の組織、広域変成岩の記載的特徴、局所変成岩の記載的特徴、堆積岩の形成と分類、の13章からなっている。
本書の特徴はいくつもあるが、岩石を中心としている点と、CD-ROMが付属している点であろう。他の記載岩石学の書では、偏光顕微鏡の扱いがあり、造岩鉱物についても鉱物の分類に基づいて網羅的に記載されている。本書でも、鉱物の記載はあるが、必要最小限にとどめられている。そして、岩石の説明の中に必要最小限の造岩鉱物の説明がおさめられている。それは、岩石の記述に重点を置かれているためと考えられる。
この種の書籍では、カラーによる例示が、非常に重要である。もし、その要求を満たすなら、書籍の価格が高くなり教科書として高価になるという経済的デメリットが生じる。洋書には、優れた岩石写真や偏光顕微鏡写真のカラー図鑑があるが、和書では少量が口絵として添付されるにすぎない。この点が、従来の記載岩石学の教科書の欠点であり、残念な点であった。本書でも、多数の写真図版が小さいサイズで挿入されているにすぎない。しかし本書では、その欠点を補うために、写真のすべてと図表の一部が、CD-ROMにおさめられている。非常によい措置であると考えられる。今後、教科書的書籍で、カラー図版が必要な場合は、本書を例とされると良いと考えられる。
さて、最後に、欠点というか特徴というか、判断に迷う点を一つ述べよう。それは、堆積岩の記載についてのアンバランスである。火成岩と変成岩の記述に比べて、堆積岩の記述はあまりに少なく、アンバランスである。本書の著者である周藤氏は火成岩、小山内氏は変成岩を専門とされている。従って、堆積岩に関する記述が少ないのはしょうがないことかもしれないが、できれば、充実して欲しかった。しかし、本書を、火成岩および変成岩の記載のための教科書とすれば、変成岩の理解のためには、堆積岩の知識が不可欠である。従って、必要最小限の堆積岩の説明がなされていると考えれば、この程度で充分なのかもしれない。
本書は良書であり、記載岩石学の教科書として、学生だけでなく、研究者にも薦めたい書である。そして、下巻の解析岩石学へも期待が大きい。早く上梓されんことを祈っている。